ビジネスや接客の場でよく耳にする「〜させていただきます」。丁寧な印象がありますが、最近では「使いすぎでは?」「なんだかくどい」と感じる人も増えています。では、実際どんな場面で使うのが正しいのでしょうか?この記事では、「〜させていただく」の正しい意味と使い方、そして“使いすぎ”と感じさせないコツをやさしく解説します。
「〜させていただく」の本来の意味

「〜させていただく」は、自分の行為に相手の許可や恩恵があることを表す謙譲語です。つまり、「自分が何かをするけれど、それは相手のおかげ・許しがあってできる」というニュアンスを含んでいます。この言葉の背景には、“相手を立て、自分をへりくだらせる”という日本語特有の敬意表現の文化があり、控えめさや礼儀を重んじる日本人の感覚が深く関係しています。
たとえば:
- 「発言させていただきます」→(相手が話す機会を与えてくれた)
- 「資料を拝見させていただきます」→(相手が資料を見せてくれた)
- 「会場をお借りさせていただきます」→(場所を使わせてもらう許可を得ている)
このように、相手の了承・恩恵があるときに使うのが本来の正しい使い方です。言い換えると、「自分だけの判断で勝手に行うことではなく、相手の理解や厚意のもとで行動する」場合にふさわしい表現です。
また、「〜させていただく」は単なる敬語ではなく、感謝の気持ちをこめた丁寧表現でもあります。相手の好意を前提として行動するため、ビジネスや公の場では特に重宝されます。しかし、最近では「とりあえず丁寧に聞こえるから」と、どんな動作にも自動的につけてしまう傾向が広がっており、結果として“使いすぎ”“くどい”と感じられるようになってきました。
つまり、この表現は敬意と感謝を伝える便利な言葉である一方、使う場面を誤ると不自然に響く繊細な言い回しなのです。
使いすぎと言われる理由

「〜させていただく」が過剰と感じられるのは、必要のない場面でも使ってしまうからです。たとえば、相手の許可を必要としない行動に使うと、わざとらしい印象になります。実際、ビジネスメールや会議などで1文に何度もこの表現が登場すると、読んでいる側が「丁寧すぎて読みにくい」と感じてしまうことがあります。
✖「これからご説明させていただきます」
→ 相手の許可がなくても説明できるため、「説明します」で十分です。こうした場面では、シンプルに述べるほうが誠実で自然な印象を与えます。
✖「こちらにおかけさせていただきます」
→ 自分が座るだけなのに、相手の承諾を強調してしまう不自然な表現。むしろ「失礼します」や「座らせていただきます」といった一言のほうが礼儀として適切です。
このような誤用は、「とりあえず丁寧に聞こえるから」といった心理から生まれがちです。しかし、言葉の目的が「伝える」ではなく「丁寧に見せる」に偏ると、結果的に伝わりにくくなってしまいます。つまり、形式的な丁寧さを追い求めすぎるあまり、意味のない敬語=過剰敬語になってしまうのです。
また、職場などでは“丁寧な印象を残したい”という気持ちから使いすぎてしまうこともありますが、相手によっては「距離を感じる」「不自然」と受け取られることもあります。特に、同僚や部下に対して多用すると、上下関係を強調しすぎる印象になる場合もあるため注意が必要です。
つまり、「〜させていただく」は**“自分の行為が相手の意志や恩恵に関係しているときだけ”使う**のが自然なのです。何でもかんでも付けてしまうと、かえってまわりくどく、違和感のある日本語になります。
正しい使い方の目安

次の3つの条件のうち、どれかに当てはまる場合は「〜させていただく」を使ってOKです。この3つを意識しておくと、どんな場面でも自然で誠実な印象を保ちながら会話や文章を組み立てることができます。
- 相手の許可・恩恵があるとき
例:「お席を使わせていただきます」
→ 相手が「どうぞ」と許可を与える状況において使用します。特に来客先や公共の場など、相手の持ち物や空間を利用する場合にぴったりの表現です。 - 自分がへりくだる必要があるとき
例:「先に失礼させていただきます」
→ 相手より先に行動する際に、謙虚さを示すための丁寧表現です。単に「失礼します」と言うよりも、控えめで柔らかい印象になります。上司やお客様の前を離れるときに使うと、礼儀正しい印象を与えます。 - 相手に迷惑をかける可能性があるとき
例:「少しお時間を頂戴させていただきます」
→ 自分の行為が相手の時間や労力を奪う場面では、この表現を使うことで“申し訳なさ”と“感謝”の気持ちを同時に伝えることができます。商談や打ち合わせなどで相手の協力を求める際にも有効です。
さらに、これらの条件を踏まえて判断すれば、「〜させていただく」の使いどころがぐっと明確になります。つまり、自分の行動が相手の意思や許可に関係しているかどうかを意識することがポイントです。もし関係していないなら、シンプルに「いたします」「します」と言い換えたほうが自然です。
このように、「自分の行為が相手の影響を受けるか」を基準に判断すれば、使いすぎを防ぐことができ、より自然で美しい日本語を使うことができます。
言い換え表現でスッキリ丁寧に

どうしても「〜させていただく」を使いすぎてしまう人は、別の丁寧表現に置き換えてみましょう。言葉を少し変えるだけで、印象がやわらかくなり、より自然で読みやすい日本語になります。相手への敬意を保ちつつも、過度なへりくだりを避けたいときにおすすめです。
- 「確認させていただきます」→「確認いたします」または「確認します」
→ 行動の主体が自分である場合、「いたします」のほうがスッキリと誠実です。 - 「説明させていただきます」→「ご説明します」または「説明いたします」
→ 「ご説明」は敬語のバランスが良く、口頭でも文章でも使いやすい表現です。 - 「お送りしますさせていただきます」→「お送りします」
→ 「お送りいたします」でも十分丁寧で、相手への思いやりが伝わります。
さらに、「ご連絡させていただきます」などの表現も、場面によっては「ご連絡します」「ご連絡いたします」に置き換えるとより自然です。これらの言い換えは、ビジネスメールや報告書など形式ばった文書で特に効果的です。
ほんの少しの違いですが、文章全体がすっきりと読みやすくなります。特にビジネスメールでは、同じ文中に何度も「させていただきます」が出てくると、くどい・堅苦しい印象になるので注意しましょう。また、読み手が上司や取引先などの場合、重ねて使うよりもシンプルな表現の方が信頼感と知的さを感じさせることもあります。
まとめ
「〜させていただく」は、決して間違った表現ではありません。むしろ、相手を立てる丁寧な言葉として正しく使えば好印象を与えることができます。ただし、何でも丁寧に言おうとして乱用すると、かえって違和感のある表現になります。
「本当に相手の許可や恩恵があるか?」を一度立ち止まって考えること。それが“自然で美しい敬語”を使う第一歩です。

